序章(4)情報収集とコネクションづくりは難航した

長期連載:日本化するイギリス政治、イギリス化する日本政治*1

目次
序章:日本人初の英国与党党本部での経験を勝ち取るまで
 (1)キャピトルヒルからウェストミンスターへ
 (2)日本とイギリスの政治制度は似ているという誤解
 (3)政策転換の傾向は大きく異なる
 (4)情報収集とコネクションづくりは難航した
第1章:イギリス与党保守党本部から見たイギリスの政府・与党
第2章:イギリス議会から見たイギリスの首相と国会議員
第3章:ロンドン市長選挙対策本部から見たイギリスの選挙
第4章:イギリス政治のインサイダーから見た2015年総選挙
第5章:ロンドン大学政治経済学院(LSE)から見た日英政治比較
終章:日本化するイギリス政治、イギリス化する日本政治

本文
 2010年の8月末、このように身に余る壮大な思いと疑問を抱えてアメリカからイギリスへと渡ってきた私だが、その疑問に答えるために、二つのことをしたいと考えていた。一つは、大学院在学中に日本とイギリスの比較政治学について勉強をして、自分自身の疑問に学問的に、構造的に答える修士論文を作成することだった。二つは、その学問的な理解に基づいて、政治の現場でどのような違いが生じているのかを理解するために、イギリスの政治の現場で経験を積むことだった。ただ、一口に政治の現場と言っても多種多様な現場があり、そこでの、自分のやれることも千差万別である。欲を言えばキリがないが、欲を言わないことにはできることもできなくなってしまう。ひとまず、どういうところでの経験に興味があるのか、考えてみることとした。

 日本の民主党自民党時代から変えようとしたことの一つが政府と与党の間の関係であり、私もそこに大きな興味があったため、政府にポジションのある議員の秘書や、逆にそうではなく政府にポジションのない議員の秘書、与党保守党の党本部の中でも選挙対策を行う部門や政策調査などは当然ながらリストの一部となった。さらに、日本ともアメリカとも異なるといわれるイギリスの選挙のやり方にも興味があったので、選挙コンサルティング会社もその一部となった。また、イギリス政治におけるシンクタンクやロビイング会社などの役割・機能にも興味があったので、そうしたところもリストアップされた。大学院で勉強を続け、イギリス政治に対する理解が深まるにつれて、そのリストも次第に変わっていった。そして、最終的には、保守党本部、政府にポジションを持たない保守党の庶民院議員秘書、実際の選挙における選挙対策本部という3つの現場で経験を積むことを、自分にとっての理想的なプログラムと位置付けた。

 幸運にも、私はその3つの全てで実際に経験を積むことができた。保守党本部では政策調査とともに、それが党の広報活動にどのように用いられるのかということをい知ることができた。加えて、思いがけず政党外交という世界を垣間見ることもできた。ロンドン市長選挙におけるボリス・ジョンソン氏の選挙対策本部では、選挙コンサルティング会社と党本部の選挙対策部門の人々が共同プロジェクトとして選挙活動を行う、その中枢を経験することができた。また、ジェイコブ・リース・モグ庶民院議員(Jacob Rees-Mogg MP)の議会内秘書としては、1人の庶民院議員の日常の活動内容をすぐ近くで見るとともに、政府にポジションを持たない議員としての活動をサポートすることができた。ただ、そこに至る道のりは決して楽なものではなく、困難の連続だった。

 2010年春にまだ私がニューヨークのコロンビア大学大学院で勉強をしていた頃から、2011年の6月に留学先のLSEの最終試験が終わる頃まで、様々なツテをつたってイギリス政治の専門家、イギリス政治の現場で働いているもしくは働いていた人を紹介してもらっては、ネットワーキングを続けた。友人の友人や、LSEの先生、LSEのクラスメート、LSEの修士課程プログラムの一環として行った庶民院事務局へのコンサルティングプロジェクトで知り合った方々、各種イベントに参加していた庶民院議員、イギリス政治関連のセミナーで知り合った知人、LSEで書く修士論文のための調査という名の下でのインタビュー、様々な勉強会など。執念深くその可能性を探ってはみたものの、なしのつぶてとはこのことだった。結局のところ、このルートで実際に仕事が見つかることはなく、ほとんどの活動が徒労に終わった。

 同時並行でパブリック情報も使いながら機会を探した。この世界で仕事を探している人には有名なW4MP(Work for Member of Parliamentの略)というウェブサイトには、議員秘書や政党本部、シンクタンクなど、イギリス政治にかかわる様々な仕事の求人情報がでているので、そこを頻繁に訪れては自分の興味に合う機会がないかを探した。政党のホームページからも採用情報を探したりもした。ただやはり、一人一人の議員が自らの秘書として議会のIDパスを発給できる人数が三人に制限される中で、私はかなり苦戦した。たった1年だけ働くことを希望していて、それも、その1年間の間にいろいろな場所を転々とすることを求めて、イギリス育ちでもなく、英語のネイティブスピーカーでもない日本人の私には、正規のルートで仕事を見つけることは難しい。最後まで情報は見続けたが、やはりこのルートでも、実際に仕事が見つかることはなかった。

*1:本連載に記載の事実や認識は、個別に示されたものを除き、2015年9月時点のものである。