英国議員の事務所でのインターン(2/3) - 陳情対応

英国議員の事務所でのインターン:過去エントリ
(1/3) 概要

前回のエントリでは、議員事務所全体の仕事とスタッフ構成の概要を書きました。今回はその中で私が主にやっていることの1つである陳情対応について書きたいと思います。選挙区有権者NPOなどからの陳情は主に3つの経路から入ってきます。前回少し触れた、選挙区での議員と有権者の面会時間から上がってくる場合、議員宛ての手紙が送られてくる場合、議員宛てのメールが送られてくる場合の3つです。陳情の内容は、個別の有権者の裏庭での隣人とのいさかいから、連立政権のEU政策や財政政策、発展途上国での人道問題まで、非常に多岐にわたります。Rees-Mogg議員の選挙区に限った話ですし、議員に陳情をする方々ということでやや偏ったセグメントかもしれませんが、実際にその地域に住む方々が、日常生活から社会的な問題、経済的な問題まで、どんなことを気にして生活しているのかが伝わってきます。イギリスに住んだことがあるとは言っても、それはロンドンだけの話であり、私にとってはとても新鮮な内容がたくさんあります。

こうした陳情には個人的な活動として行われているものもあれば、組織的なキャンペーン活動の一環として行われているものもあります。組織的なキャンペーンというのは、例えば国際支援系のNGOが特定のイシューに対して英国政府に働きかけを行う際に、陳情のためのテンプレートの手紙またはメールを用意し、それを彼らのネットワークを用いて、様々な選挙区の有権者から多くの議員に送ってもらっていたりします。また、38 DegreesAVAAZなどのように、ネットを活用した草の根のキャンペーン活動を得意領域として、様々なイシューについて、キャンペーンまたはロビイングを同時展開している団体もあります。

こういった陳情に対して、議員が自分の考え方を伝えたり、自分の活動内容を紹介したりする場合もあれば、議員から政府やその他の関連する組織に対して陳情を行うこともあります。イギリスでは官僚の政治的な中立性に対して厳格な姿勢がとられるため、与党議員も政府の職に就いていない限りは、議員と官僚が接触することはありません。したがって、議員が政府に陳情をする際は、議員から各役所の大臣宛てに手紙を書きます。この手紙が各役所の担当の官僚の方々によって対応され、返事の手紙が書かれ、そこに担当大臣が署名して、議員宛てに手紙が送られてきます。この手紙を再度、議員事務所から有権者NPOなどに送り、(さらなる返信がなければ)そこで1つのcaseworkが終了します。

この中での私の仕事は、議員から送られる手紙をドラフトすることです。特に、国の政策に関する手紙が送られてくる場合には、彼の過去の発言を調べてみたり、議員の考え方の原則に照らして、彼がどんなコメントをするかを考えながら、中身をドラフトします。そうしてできた手紙を、実際に議員が目を通して、彼からの指示を受けて、中身を修正します。どんな手紙も、その対応についての最終的な決裁は議員自身で行い、彼が手紙にサインをして、その手紙が送られます。彼に上げるかどうかを秘書が決めたり、彼の目に触れないまま手紙が送られたりすることは、決してありません。イギリス政治は日本に比べてトップダウンの側面が強調されがちではありますが、個別の議員が地域の有権者の声を関連する役所に届けることは、下院議員の大切な仕事の1つだと認識されています。

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ちなみに木曜日は、別の保守党議員の方から時間をいただいて、1時間ほど話をしてきました。その中でも印象的だったのは、彼には10代の子どもが何人かいるのですが、年に1回、夏の議会休会中の1ヶ月は、家族だけで過ごすようにしているということでした。彼のことを知っている人がいなさそうな土地に行き、いくつかの例外を除いて秘書からの連絡も許さずに、のんびりとすごすようです。また、なるべく地元外の学校に子どもを行かせることで、親が政治家だということが、子どもにとって苦にならないよう、努力をしているとのことでした。そのおかげで教育費がとてもかさむようで、子どもからは、「なんでうちにはこんなに古い車しかないの?」と詰問にあうようです(笑。