Behavioural Insights Team

先日のエントリ「なぜ、政府統治の新たな手法が、イギリスで次々と導入されるのか」を書こうと思ったきっかけの組織について簡単に紹介したいと思います。その組織の名前は本日のエントリのタイトル、Behavioural Insights Teamです。この組織はCabinet Office(内閣府)の下に設置されています。公式ホームページを読むと、この組織の設置目的は、「法律、規制、および財政的な手段(税金や財政支出)」などの伝統的な政策ツールを補完しうるような、行動経済学および行動科学に基づいた政策ツールの考案です。したがって当然のことながら、伝統的な政策ツールの重要性が失われた、ということではなく、あくまでもそれを補完する新たなツールの考案です。端的な例で言えば、「市民がもっと健康に配慮した生活をすれば、医療制度をあれこれ改善するよりも、もっと市民の健康は改善する」という政府の悩みだったりするのだと思います。「市民がもっと健康に配慮した生活」をしたくなるためには、政府はどのようなことをすべきなのか、そこに何らかの解を見出すことがミッションなのでしょう。

Guardian紙のいくつかの記事*1によると、こういったチームが政府に設置されるのは、世界で初めてのことで、以下のような経緯で設置されたようです。まだ保守党が野党時代で、世界経済が金融危機に直面する以前に、NudgeというRichard Thaler および Prof. Cass Sunstein という2名の学者による書籍に、当時の保守党首脳部が興味を示したのがきっかけのようです。

Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness

Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness

Nudge理論というのは、端的に言うと、「市民が自らおよび社会のために最良の選択をしやすくなる、その環境を政府はデザインすることができる」というコンセプトのことで、これを広めたのがこの書籍のようです。Steve Hiltonという現在は首相官邸で働くキャメロン首相の側近が、このコンセプトのサポーターで、保守党が政権入りするまでこのアイデアは生き延び、連立政権の1つのクリエイティブな政策として導入が決まりました。チームのステアリング・コミッティにはSteve Hilton自身も加わり、内閣府の大臣も参加するなど、小さな組織にしては、注目度の高いチームのようです。チームの存続期間は2年間予定で、その1年後に、成果が検証されるようです。

今年の9月に最初のAnnual updateを発表していますが、今までの仕事の多くは、「人々は、情報と背景をより広く与えられた時に、自らにとってより良い選択をする」という議論を、いくつかの政策領域で行なっているようです。ウェブサイトには具体的な政策事例としていくつか紹介されているものもあります。1つはドラッグストアのBootsがこのチームとDepartment of Healthのサポートを受けながら実施している禁煙のパイロットプログラムです。このプログラムの参加者は契約書にサインをするなどの、コミットメントを求められ、喫煙テストをクリアするとrewardをもらえたりするようです。読んでみると普通なので、こういったことそのものは、既に他の国の政府でも行われているかもしれませんが、こういうことを政府主導で民間と共同して推進することは新しいのかもしれません。他にも健康関連(アルコール、臓器提供、肥満など)の政策課題についての取り組みがこちらのレポートに掲載されています。ご興味ある方はぜひ。