第1章(5)税金を投じて途上国の政治に投資をする

長期連載:日本化するイギリス政治、イギリス化する日本政治*1

目次
序章:日本人初の英国与党党本部での経験を勝ち取るまで
第1章:イギリス与党保守党本部から見たイギリスの政府・与党
 (1)保守党は組織とは呼びづらいモザイク状のコミュニティ
 (2)党本部は党首を支援するキャンペーンのプロ組織
 (コラム)保守党本部の職場環境
 (3)保守党調査部はエリートを抱え政治的ストーリーをつくる
 (4)保守党国際部は党の外交機能を持つ
 (5)税金を投じて途上国の政治に投資する
第2章:イギリス議会から見たイギリスの首相と国会議員
第3章:ロンドン市長選挙対策本部から見たイギリスの選挙
第4章:イギリス政治のインサイダーから見た2015年総選挙
第5章:ロンドン大学政治経済学院(LSE)から見た日英政治比較
終章:日本化するイギリス政治、イギリス化する日本政治

本文
 ウェストミンスター民主主義基金からの資金によるプログラムの運営が保守党国際部の仕事の半分程度を占めると書いてきたが、もう少し詳しく、ウェストミンスター民主主義基金とはなんであろうか。少し古い資料ではあるが、ADP支援議員の会によると、ウェストミンスター民主主義基金はドイツの政党財団とアメリカのNEDをモデルとして、1992年に設立された*2。WFDのウェブサイトによると、WFDの目的は発展途上国や移行国に対して、議会、政党、まはた議会政党へプログラムを提供することを通じて、市民のための開放的で有効な民主主義を確立・強化することである*3。資金は議会の決議に基づいて外務・英連邦省(FCO)や国際開発省(DFID)から受けているが、独立したNGOであり、WFDが独自でプロジェクトを運営している。外務省はWFD理事会からの報告書をもとに年次報告書を作成し議会に対し提出する。また、会計監査は英国議会の会計検査院(National Audit Office)が行うこととなっている。

 2014年3月期のアニュアルレポート*4によると、収入は外務・英連邦省からの資金約7億円(350万ポンド)に加えて、国際開発省などを中心とするそれ以外の第三者機関からの資金が約5.5億円(280万ポンド)、合計で12.5億円程度だ。支出はWFDの運用するプログラムの費用が10億円弱(480万ポンド)で、それ以外はWFD自体のスタッフの給与などである。プログラム費用の内訳はWFDそのものが運用するプログラムの資金が約半分を占め、残りの半分がイギリスの政党を通じて運用される構成になっている。政党間の内訳は、保守党と労働党がそれぞれ2億円弱(90万ポンド)、自由民主党が約6千万円(30万ポンド)、残りが少数政党となっている。

 WFDが資金提供するプログラムは大きくは議会の支援と政党の支援の二つに分かれ、ここにさらに、EUの選挙監視団への監視員の派遣の業務が加わる。イギリスの政党が運用するプログラムは主にこの政党の支援となる。議会の支援は具体的には、ジョージアにおける市民社会の支援、ボスニア・ヘルツェゴビアにおける女性の政治参加の促進、ヨルダンにおける議会改革と若者の参加促進など、各国の現状の民主化ニーズに合わせて多様なプログラムが提供される。政党への支援については、保守党・労働党自由民主党などのイギリスの政党の、現地の姉妹政党への支援が行われる場合もあれば、双方ともに超党派で行われる場合もある。より具体的には、特に女性や若者の参加に焦点を絞った有効な政党組織の構築や、政党の国家、地域、エリアレベルでのキャンペーンや広報活動の強化、政策立案のノウハウ提供など、こちらもそれぞれのニーズに合わせてプログラムが提供される。

 このように政党がかかわるプログラムでは、実際に保守党の国際部のスタッフだけではなく、国会議員や地方議員が被支援国に行き、選挙活動の手法を教えたり、青年部や女性部などの立ち上げのための具体的なアドバイスを行う。当然のことながら、こうした活動を通じて被支援国の政治家と強固なパイプができる。これを、イギリスでは保守党だけではなく、労働党自由民主党なども、それぞれのイデオロギーに近い政党に対して同様の支援を実施する。そのため、結果的には被支援国のどの主要政党が与党となっても、イギリス全体としては主要政党を通じて、被支援国の政党とパイプを持つこととなる。

*1:本連載に記載の事実や認識は、個別に示されたものを除き、2015年9月時点のものである。

*2:ADP支援議員の会 (2004) 海外の民主化支援財団とそのシステム. 最終検索日: 2015年6月2日

*3:Westminster Foundation for Democracy

*4:Westminster Foundation for Democracy