第4章(コラム)もっともらしくイギリス政治の未来を占うには

目次
序章:日本人初の英国与党党本部での経験を勝ち取るまで
第1章:イギリス与党保守党本部から見たイギリスの政府・与党
第2章:イギリス議会から見たイギリスの首相と国会議員
第3章:ロンドン市長選挙対策本部から見たイギリスの選挙
第4章:イギリス政治のインサイダーから見た2015年総選挙
 (1)イギリスの総選挙における4つの投票パターン
 (2)不確定要素の焦点は二つのナショナリズムであった
 (コラム)ブレグジットへの通過点としての2015年
 (3)ナショナリズムの不確定要素は「政権選択」を複雑にした
 (4)直前の世論調査ではハング・パーラメントが確実視されていた
 (5)保守党のキャンペーンの本質は何だったのか:フレーミング、40/40、死んだ猫、くさび…
 (コラム)もっともらしくイギリス政治の未来を占うには
第5章:ロンドン大学政治経済学院(LSE)から見た日英政治比較
終章:日本化するイギリス政治、イギリス化する日本政治

本文
 マスメディアに登場する専門家のように、もっともらしく、イギリス政治の未来を占うためにはそどうすればよいか。答えは簡単である。賭けのオッズを見て、もっともらしく、理由づけすればよい。

 イギリスにはギャンブルの文化が浸透しており、様々な政治の話題も賭けの対象になっている。イギリス最大のブックメーカーであるウイリアムヒルのウェブサイト*1を見てみると、その政治のコーナーにはいくつもの賭けが設定されている。2015年総選挙前のには以下のようなものがあった。次の総選挙の結果は、単独過半数なしか、保守党の過半数か、労働党過半数か、自由民主党過半数か、英国独立党の過半数か。次の総選挙の第一党は保守党か、労働党か、自由民主党化、英国独立党か、緑の党か。次の総選挙はいつになるか、2015年か、2016年か、2017年か、2018年か、2019年か、2020年か。次の労働党の党首は誰か。キャメロン首相の次の保守党の党首は誰か。イギリスがEUを離脱するか否かを問う国民投票はいつ行われるか。その国民投票では、EU残留が過半数をとるか、EU離脱が過半数となるか。こうした、イギリス政治のその時々の主要なトピックが、賭けの対象となっており、多くの人がどういう認識を持っているのかが、賭けのオッズを通して数字で分かる。

 そして、その予測の精度も非常に高い。2015年の総選挙では、世論調査会社が選挙結果の予測を大きく外したことで話題になった。賭けのオッズはどれだけの人がどの選択肢に賭けているかによって決まり、その人々の行動は、世論調査会社の出している世論調査の結果に影響を受けている。したがって、賭けと世論調査のいずれが精度が高いのかは、独立の問いとしては答えがでない。しかし結果的には、賭けのオッズは世論調査の結果と同程度の精度だったことが検証されている*2。それくらい、「それなりに確からしい」見方を与えてくれるのだ。

 大きな方向性が、どちらに傾いているのかが分かれば、あとは、それをサポートする理屈はオンラインの記事にもあふれている。インターネットを使ってこうしたちょっとしたリサーチをして、自信をもってもっともらしく語れば、イギリス政治のインサイダーのような顔ができる。もっとも、そのようなことをしたい人は限られているだろうが…。

*1:www.williamhill.com

*2:blogs.lse.ac.uk