議員インターンシップをどう選んだか

だいぶ…久しぶりになってしまいましたが、また懲りずに書き始めようと思います。前回のエントリを書いた時は、ロンドン市長選挙の現職候補ボリス・ジョンソン氏の選挙対策本部で働いていました。こちらは、あまりブログに残すことができませんでしたが、別途プレゼンテーションを作成して、とりあえず記録は残したと自己満足に陥りました。。。それで今、何をしているかというと、Jacob Rees-Mogg下院議員の議会内オフィスで働いています。イギリス議会のあれこれ、毎日、くだらない発見がいろいろとあるので、これからまた少しずつ書いていきたいと思います。

昨年の9月に保守党本部でインターンを始めてから、早いものでもう9ヶ月以上が経ちました。イギリス政治に関わる様々なところでインターンをしたいと思い、保守党本部の国際部、同じく調査部、ロンドン市長選挙、下院議員の秘書とインターンをしてきました。何度もあきらめかけましたが、おかげ様で、党本部、選挙、議員秘書と、当初インターンをしたいと思っていたところでそれぞれインターンをすることができました。本日は、なぜJacob Rees-Mogg議員の事務所でインターンをしたいと思ったのか、そこに焦点を絞って書きたいと思います。ちなみに、今日のブログ投稿の友は、The Laddie TenというBruichladdich蒸留所のスコッチです。アイラ島のスコッチなのにピートの香りのしない不思議なスコッチです。

一般的に、インターンや仕事探しに限らず、何かを選択する考え方としては、strategicな考え方と、opportunisticな考え方の2つがあると思います。誰の事務所でインターンを出来れば、自分にとっての学びが大きいか、というstrategicな側面が1つ目です。一方で、結果的にインターンができなければ、何を目標としても絵に描いた餅なので、現実的にありうるオプションから考えるというのが2つ目です。企業のM&A戦略で言えば、自社の強みや弱みを考慮した上でどういった企業を買収すると、もっとも自社の企業価値が高まる可能性があるかというのが、strategicな観点です。一方で、実際に今(もしくは近い将来)、売却される可能性のある企業や事業の中から、実際に買収するターゲットを絞り込んでいくのが、opportunisticな観点です。どちらの観点から考えるべきかという問ではなく、両方考える必要があるのは、仕事探しでも、企業買収でも同じ事でしょう。

w4mp.orgというイギリス政治に関わる様々な仕事の募集が掲載されているウェブサイトがあります。こちらで紹介されているような仕事は、ある程度の期間のコミットメントを前提としたフルタイムの仕事が主なものです。私が探していたようなインターンについては、「聞いてみないと分からない」というのが正直なところです。したがって、opportunisticな観点から絞り込むことは、やや難しい状況でした。300名以上いる保守党の下院議員の中から、「どういった議員の事務所でインターンをしたいか」をstrategicに考え、何十人もの議員に手紙を書いて、その中でたまたま良いタイミングで人を探している事務所を見つける幸運に、恵まれる必要があります。

Jacob Rees-Mogg MPの下でインターンをしたいと思ったstrategicな理由

さて、Jacob Rees-Mogg MPの事務所でインターンをしたい思った理由は、主に3つあります。1つ目が、彼が政府「外」の保守党議員であること。2つ目が、彼がProcedure Committeeという下院の委員会の委員をしていること。3つ目が、(外から見ていて)彼がわりと頻繁に造反をしていて、特に政府の仕事にも興味がなさそうで、なおかつ、自分自身が起こした資産運用会社でも引き続き働いている、ちょっと変わった一期目の議員だと思ったこと。

議員事務所でのインターンを考えた際に、最初はミーハー心から、政府にいる大物議員の事務所が良いな…とは思いました。しかしよく考えると、私の目的からはあまり望ましくはないのではないかと思い始めました。というのも、イギリスの議員はいったん政府の役職を得てしまうと、基本的には政府の中にいる時間が長く、政府・議会の中でのもろもろの政治的な活動も、基本的にはSpecial Advisorと呼ばれる、政治的な役割を担う政治任用の役職の方々が扱うこととなります。その結果、議員事務所と議員本人の接点は薄くなり、政府・議会内政治からは遠くなってしまいます。そのため、政府に役職のない議員のインターンを探しました。

次に、彼はProcedure Committeeという下院の委員会の委員をしていますが、この委員会は、議会の様々な手続き・ルールを見直すための委員会です。このブログでこれまでご紹介する機会があったかどうか、記憶が定かではありませんが、日本の国会とイギリスの議会には、大小様々な国会/議会運営上の違いがあります。もっとも大きな違いで言えば、政府主導で議事日程を決めることができるかどうかですが、どんな影響を及ぼしているのか分かりづらい小さな違いもたくさんあります。そうした細かな違いにも興味があるのですが、このProcedure Committeeというのはまさに、イギリス議会のルールを見直す委員会なので、私にとってはうってつけの場所です。その議論を広く知ることができるわけではないと思いますが、今のイギリス議会で、議会運営ルールの何がhot issueなのか、それだけでも知りたいと思いました。

最後に、(外から見ていると)彼がEU問題も含めてわりと頻繁に造反をしていて、特に政府の仕事にも興味がなさそうで、なおかつ、自分自身が起こした資産運用会社でも引き続き働いている、ちょっと変わった一期目の議員だと思いました。彼の考える、国家の主権、保守主義、イギリスのような政治システムにおける与党議員の役割などについて、ぜひインフォーマルな場で話を聞く機会をえたいと思いました。

Jacob Rees-Mogg MPの下でインターンをしたいopportunisticな理由

先ほど、「opportunisticな絞り込みは難しい」と書きましたが、そういう観点が全くなかったわけでもありません。こちらは、経緯をたどって書いた方が理解しやすいと思いますので、時系列でどのような経緯があったかを書いておきたいと思います。

議員事務所でインターンをしたいということは、国際部でインターンをしていた頃から、そちらのボスに相談をしていました。そして、11月の半ばに中道右派の政党の国際連盟の会議の手伝いをした際にも、そのボスに相談をしました。すると、ボスから「議員に推薦状を書いてあげる」との願ってもないオファーがあり、「インターンを通じて何を得たいのか、どの議員の下でインターンをしたいのか、教えてほしい」と言われました。そこで私は、私は上記に書いたような、イギリスにおける「政府と与党」の関係や「政府」「民間」「社会」の関係をよりよく理解する機会のある議員事務所(strategicな観点)、自分が日本人であることが少しでも強みになりうる議員事務所(opportunisticな観点)、ということで何名かの議員の名前を挙げました。

イギリス政治の中で、自分が日本人であることが強みになることはほぼ皆無ですが、しいてあげれば無いことはありません。以前、「英国保守党でインターンをもらえた経緯」でも書きましたが、イギリス議会にはBritish Japanese Parliamentary Group(英日議連)という超党派議員連盟があります。この議員連盟に所属している議員が全て公開されているわけではありませんが、一部の議員の名前は議会のウェブサイトからみることができます。ここに所属している議員であっても、日本関連の仕事はごく限られているでしょうから、大した強みにはなりませんが、少しは強みになるかもしれません。それから、個人的な興味として、日本が好きな議員も考えられます。現在は国務大臣のJeremy Hunt議員もかつては、議員事務所に日本出身(国籍が日本人かどうかは分かりません)の方がいたという話も聞きました。知りうる限りの知識で、自分が日本人であることが少しでも強みになりうる方々もリストアップしました。

しかし結果的には、国際部のボスが推薦状を書いてくれたにもかかわらず、このアプローチは今回はうまくいきませんでした。今となっては、私のプロフィールが先方にとって興味深いものでなかったからなのか、ただ単に空きがなかっただけなのか、よくわかりません。いずれにしても、年初くらいから数ヶ月トライしてみたものの、なかなかうまくいかないまま、ロンドン市長選挙の選対本部での仕事が始まりました。自宅アパートの解約の通知期限などもあり、選対本部での仕事が残り1ヶ月になる頃までに、議員インターンが決まっていなかったら、諦めようと思っていました。したがって、選対本部での仕事が始まってすぐは、仕事から帰ってくると、議員に手紙を書く日々がしばらく続きました。それぞれ内容を変えて、全部で30から40通くらい書いた気がします。ほとんどは返事がありません。中には、丁寧に「空きがない」という返事をくれる方もいます。そして、しばらくしてJacob Rees-Mogg議員の秘書から、インタビューの設定のための連絡が来ました。インタビューをしてもらえるということは、空きがでるかもしれない、ということです。ここまできて、ようやく、具体的なopportunityを見つけたということです。

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そして、選対本部での仕事が残り1ヶ月を切った4月16日*1、Jacob Rees-Mogg議員にインタビューをしていただきました。トリッキーな質問は何もありません。ストレートに私がなぜインターンをしたいのかを聞かれました。それから日本のこともたくさん聞かれました。正直、日本についてここまで興味を持ってもらっているとは思っていなかったので驚きました。そして彼はその場で、インターンとして受け入れてくれることを約束してくれました。その日、そのインタビューの後、とある私的な勉強会で、イギリス政治についてお話をさせていただくこととなっていました。実は昨年の7月に保守党本部でのインターンが決まった直後にも、同じ勉強会で別のトピックでイギリス政治の話をしたことがあります。ただのジンクスですが、その勉強会では、もう一度くらい、お話をさせていただくともっと良いことがあるのかもしれません(笑。

*1:ロンドン市長選挙は5月3日でした