保守党は危機に陥っているのか

保守党議員の下でインターンをしていますし、保守党本部でインターンをしていたこともあり、最近、何かと「(次の総選挙に向けて)保守党はそろそろ限界なんじゃないか」という質問やら予言やらを、いろんな方々からいただきます。その理由としてよく上げられるのが、5月の統一地方選挙で保守党が惨敗したこと、それにも関連して世論調査での労働党の保守党に対するリードが広がっていること、イギリス経済が一向に上向かない(むしろ後退の数値が出ている)こと、などです。実際の次の選挙の結果は、まあ、神のみぞ知るの世界ですが、私はいちおう以下のように強弁しています(笑。これが単なる強弁なのか、ある種の真実を突いているのか、個人的には今から3年後の選挙が楽しみではあります。この「3年後」というところが、まさに、既にその強弁のキモではありますが。

まず、5月の統一地方選挙について。5月3日の選挙では、私がボリス・ジョンソン氏の選対本部の一員として関わっていたロンドン市長選挙だけではなく、ロンドン市議会議員選挙、イギリス各地の地方議員(および少数の市長)の選挙が行われました。ロンドン市長選挙では、おかげ様で、ボリス・ジョンソン氏が僅差ながらも再選を果たしましたが、統一地方選挙全体については、保守党にとっては極めて厳しい結果となりました。BBCの記事により詳細な結果が掲載されていますが、政党別の得票率では労働党の38%に対して保守党は31%にとどまり、保守党は改選議席約1,400議席から約400議席を失い、労働党は改選約1,350議席から約800議席も伸ばしました。こうした選挙結果そのものは、まさに、保守党にとって厳しいものであり、こうした有権者のメッセージを国政でも汲んでいく必要があることに異論はありません。

一方で、この結果がどこまで次の総選挙を占うか、というとその意味の大きさに疑問の投げかけるのが私の立場です。まず、これはよく言われることですが、国政の政権与党は通常、地方選挙では負けがちです。政党がメディアの注目を浴びて批判されやすいからです。過去数十年間で、保守党の地方議員議席の占有率が最も高かったのは、保守党サッチャー政権樹立の直前でおよそ50%程度でした。一方で、逆にそれがもっとも低かったのは、保守党メージャー政権が選挙に敗北して労働党ブレア政権が誕生する直前で、およそ20%程度でした。その間、その議席占有率は一貫して下がり続けていました。その保守党の地方議席占有率は、1997年から2010年までの13年間におよぶ労働党政権の中で、また徐々に上昇を続け、45%程度にまでなりました。そして、2010年の政権交代以降また下がり始め、現在は今年の選挙での敗北を受けて40%程度となっています。このような長期的な視点に経つと、2012年の統一地方選挙は保守党の敗北であることに変わりはなくても、その敗北のもつ意味の大きさが異なって見えるのではないでしょうか。

また、この2012年の統一地方選挙での敗北がもたらした、保守党にとっての追い風もありました。それは、やや消極的な考え方でありますが、この選挙で保守党が敗北し、労働党が勝利した結果、労働党内でエド・ミリバンド党首を交代させる理由が乏しくなったことです。その結果、2015年に予定されている総選挙まで、エド・ミリバンド氏が労働党党首である可能性が高まりました。このことは、エド・ミリバンド氏にとっては大変失礼ながら、他の労働党党首候補として名前が上がるような方々と比べて、どちらかというと保守党に利するのではないか、というのがイギリス政治ウォッチャーの専らの見方です。

次に世論調査についての見方です。現在、YouGovによると労働党の支持率やおよそ40数%で、保守党の支持率がおよそ30数%ということで、労働党が約10ポイントくらいのリードを保っています。年初にこれが拮抗していたことを考えると、この半年間で、保守党がかなりその支持を減らしてきたことが分かります。一方で、ではこの程度の支持率の差が逆転できないものかどうか、ということになると、これまた過去の世論調査の結果は、異なる見方を提示してくれます。2010年、2005年、2001年にそれぞれ総選挙がありましたが、そのそれぞれの総選挙までの3年間の政党支持率をみてみると、10ポイント程度のプラス/マイナスの変動はかなり生じています。それも、それが社会として良いことか悪いことかは別として、選挙が近くなると政権党の支持率が上昇する傾向にあります。そういった見方に立つと、2012年の5月という次の総選挙まで3年が残された時点で、10ポイントのリードを付けられていることは、悲観するほどの差ではないのではないでしょうか。

最後に、イギリス経済についてです。未来の経済を正確に予測できるなら、投資家になっていると思いますが、3年間という期間は景気変動という時間軸でみても決して短いものではない、ということは言えると思います。事実、1960年から2007年までに、イギリス経済は3回ほど実質経済成長率がマイナスに転じたことがありますが、いずれも景気の後退もしくはマイナス成長の期間は2-3年ほどしか続かず、すぐに成長軌道に戻っています。もちろん、リーマン・ショック後、欧州危機のまっただ中にある現在、3年後までにイギリス経済が上向くのか、楽観視できないことは確かだと思いますが、悲観視するほどの時間軸でもないのではないでしょうか。経済の専門家でもないのでこれ以上は控えておきます。

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本日は、地方選挙結果、世論調査結果、そして、経済動向の3つを、より長期のトレンドに位置づけることで、現時点での短期的なトレンド(傾き)とは異なる姿を示してみました。エド・ミリバンド氏の党首留任トピックのおまけ付きですが。本日のエントリとは全く関係ありませんが、日本の政治が非常に緊迫してきているようですね。日本の政治を、長期のトレンドに乗せて見ることは、なかなか難しいでしょうね…。