イギリス議会の採決

イギリス議会のウェブサイトparliament.ukは情報が非常に充実しています。議員の情報はもちろんのこと、議会の本会議や委員会の開催日程、それらの議事録、法案の審議状況など膨大な情報が公開されています。それとあわせて、議会の仕組みを紹介する情報も充実しており、時間がある時になるべく目を通すようにしています。今日は、そのうちの採決の説明の中で見つけた、いくつかの小ネタをご紹介したいと思います。

重要採決 Three-line Whip

イギリスには院内総務whipという、政党ではなく公的な役職が、与党および(主な)野党ともに用意されています。彼らの仕事のミッションは、基本的には各政党のリーダーの意向に沿って、党内の投票行動をとりまとめることです。サッチャー元首相も、このChief Whipを内閣の強制手段Cabinet Enforcerとして使っているとして、有名でした。Whipは毎週、’The Whip’と呼ばれる、翌週の議会での審議事項の詳細について書かれたものを、上院・下院の藤内議員に送付します。この中に採決Divisionの項目があり、ここに、各採決の重要性に応じて下線が引かれており、下線が3本引かれているThree-line Whipsは最も重要な採決とされています。このような採決で造反をすると、場合によっては、復党が認められるまで党から除名され、無所属independentの議員として、活動を余儀なくされます。

ペアリング Pairing

毎日の議事録の中で様々な採決の結果を見ることができますが、大抵の場合、下院の全議員650人が出席しているわけではありません。そうかといって、それが「棄権」として造反の扱いをされるわけでもありません。その秘密はこのpairingという仕組にあります。これは、与党議員と野党議員がそれぞれペアを組んで、採決の欠席をそれぞれの政党の院内総務whip、政党の投票をとりまとめる役職、の了承を得る仕組みです。これにより、与党にとっても野党にとっても、欠席議員の採決への影響がなくなるため、何らかの都合で出席が難しい場合にはこの仕組みを用います。ただし、これもどんな法案にも用いることができるわけではなく、上記のthree-line whipの採決には用いることはできません。

採決の鐘 Division Bell

以前、こちらのエントリでもご紹介した、議会での採決が始まる前になる鐘です。上記のエントリでも書きましたが、これは議会内だけではなく、議会周辺のパブなどでも鳴り響きます。これが鳴ると議員たちは、Division Lobbyという採決場に向かうのは以前にも書いたとおりなのですが、このベルが鳴ってから採決場のドアが閉まるまで8分しかないようです。その場で毎回精算するイギリスのパブだから大丈夫ですが、事後精算の日本の居酒屋ですと、精算でもたつくと採決に遅れてしまいますね。

採決場 Division Lobby

最後に、イギリス議会での採決の方法についてご説明します。日本で重要な採決があると、テレビでその模様が放送され、議員が議場で列をなして、札を投票していると思います。造反議員がいると、造反を示す札を高々と示して、投票する姿も時々目にすると思います。イギリス議会での採決の方法は少し異なるのですが、投票方法がアナログであることは同じです。イギリスの場合は賛成の部屋と反対の部屋がそれぞれ用意され、議員はそれぞれの部屋に列を作り、そこに入ると投票が記録される仕組みになっています。この賛成と反対の部屋は、下院の場合はAye LobbyとNo Lobbyと呼ばれ、上院の場合はContents LobbyとNot Contents Lobbyと呼ばれています。このアナログな採決方法の電子化は、当然のことながら何度か議論されているのですが、この説明資料によると、議員同士の気軽なやりとりや、政権内議員とのインフォーマルな情報交換をするために有効である、などの理由でアナログ方式のまま残されているようです。

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アナログ方式の採決について、政権内議員とのインフォーマルな情報交換をするために有効、と書きました。これなどは、逆に言うと、与党議員といえども政権内の議員との接触が限られていることを、暗に示しています。このあたりの与党と政府の関係は、与党議員との戦いとして、別エントリでまとめたいと思います。