調査部のインターン初日

なんだかんだ言いつつしばらくブログをお休みしてしまいました。やや唐突ながら、今日からはこれまでインターンをしていた国際部ではなく、保守党調査部 (Conservative Research Department: 通称CRD) にてインターンを始めました。それに伴い、私の席も保守党本部内で国際部から調査部に移りました。すぐ近くですが。。。

EUレファレンダム(国民投票

私のPCのアクセス権限などを国際部のものから調査部に移すために、コンピュータの設定などをITにしていただきましたが、その間、ちょっと時間があったので新聞に目を通しました。今日のイギリス政治に関連した大きな話題は、いわゆるEUレファレンダム(国民投票)です。このトピックについてはTelegraphの記事にQ&A形式で分かりやすく記述されています。私の見解も少しおりまぜながら簡単にまとめると以下の通りです。

イギリスでは現在、内閣府 (Cabinet Office) のウェブサイト上で、有権者が陳情を行うことができ、10万人以上の同意が得られた特定の陳情について、庶民院での討議を検討することが義務付けられています。そして先月、EU離脱に関するレファレンダムが、10万人以上の同意を得たため、庶民院でこれを討議する動議が提出されました。

キャメロン首相および連立政権の方針はEUへの残留であり、政権与党である保守党および自由民主党の国会議員に対しては、EUレファレンダムの実施に反対票を投じる(国民投票はしない)よう、主張しています。ところがイデオロギー的な背景や歴史的な経緯もあり、EU懐疑派(EU sceptics) と呼ばれる保守党議員およそ70人程度が、党の方針に反してEUレファレンダムの実施に賛成する見通しとなっています。本日の国会でも、キャメロン首相やヘイグ外相などの閣僚が相次いで、現時点でEUレファレンダムを行うことは国益に反すると訴えました。

ただ、このEUレファレンダムの動議の採決には、政府に対する拘束力がなく、仮に可決されてもレファレンダムそのものが実施される見通しはありません。さらに、最大野党であり二大政党の一角を担う労働党も、この動議には反対票を投じると見られており、この動議そのものはほぼ確実に否決されます。したがって、政権与党である保守党でどれほどの造反が生じるかという、与党に対するキャメロン首相の求心力・統率力に、この動議の焦点があります。

先に「歴史的な経緯もあり」と書きましたが、イギリス政治の歴史的な一場面が背景となっているので、補足しておきます。1993年、当時のEC (欧州共同体) への英国の参加という意味合いを持った、マーストリヒト条約の批准の是非が英国議会に委ねられました。この議会では、当時の野党である労働党自由民主党に加え、政権与党であった保守党の懐疑派の多くの議員が、条約の批准に反対を投じると見られていました。実際、最初の採決では、保守党から大量の造反議員が生じて、条約の批准が否決されました。

しかし、あくまで条約の批准を目指すメージャー首相は、自らの信任投票をこの条約の批准に「付議 (attach) 」して、法案を議会に再提出します。すなわち、条約批准の否決はそのまま、内閣の不信任を意味します。当時のメージャー政権は支持率が低迷しており、解散総選挙となれば、多くの与党保守党議員が落選の憂き目に遭うことはかなりの確度で予想されている状況でした。そして、舞台裏の様々な駆け引きもあったかと思いますが、結果としては造反議員は首相のこのアプローチの屈し、結果的に2回目の採決では、条約の批准が可決されました。

結果的に、このマーストリヒト条約の批准をめぐる一連の出来事は、保守党内における多くのヨーロッパ懐疑派の存在を印象づける一方で、イギリス政治における首相の影響力の強さを示しました。なお、英国におけるマーストリヒト条約の批准の過程を詳細に論じたものがウェブ上にありました。まだ内容を読めていないのですが、、、ご参考まで。

今日の仕事

さて、新聞ネタの紹介がつい長くなりましたが、今日もいちおう仕事をしてきたのでそのご紹介をしたいと思います。調査部という党内シンクタンク的な位置づけの部署の性格もあり、政策に触れる内容を書くことはできませんが、雰囲気だけでも伝われば幸いです。

最初の仕事はごく普通の雑用でしたが、調査部がどんな仕事をしているのかを垣間見るにはとても良いものでした。調査部では、様々な政策課題や政治的なトピックについて、国会議員・地方議員、さらにはその中でもメディアへの露出が予定されている議員に対して、ブリーフィング資料を作成しています。ブリーフィング相手ごとに様々なフォーマットで資料を作成しているのですが、1週間ごとのまとめのブリーフィング資料については、木曜日にいったん作成をして、金曜日に補助資料を追加するのが通常のスケジュールになっています。この電子ファイルを切ったり・貼ったりしながら整理するのを1時間ほどしていたのが最初の仕事でしたが、調査部で働いている職員の主なアウトプットを最初に見れたことで、どんなことをしているのかが多少なりとも想像できました。

次の仕事はいかにも「党内」の調査部らしい仕事でした。労働党議員が連立政権政府を攻撃するために調べているとある事項について、こちら側でも事前に調査を進めて準備をしておく、というものでした(すいません、何を書いたら機密情報に触れないのかよく分からず、結果的に、ほぼ何も書けませんでした…)。その分析のためにあちこちの官庁からデータを集めていたのですが、なにせデータが一箇所にない、一箇所にあっても加工しづらい形になっている、官庁によって言葉遣いや公開期間が違う等々、この手のデータ収集にはおきまりのことですが、おかげでとても時間がかかりました。結果的には良いメッセージの出る(現政権が正しいことをしているのをサポートできる)分析だったので良かったです。

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今日のおまけですが、Telegraph紙(右派よりの大手新聞)のウェブサイトで、右派の最も影響力のある100人と、左派の最も影響力のある100人のランキングを発見したので、ご紹介しておきます。連立与党の自由民主党はもともと労働党よりも左寄りと考えられていましたが、その党首であるニック・クレッグ副首相が、右派ランキングの第3位に登場しているのが面白いところです。いわく、「財政削減に対するスピードの必要性の認識、キャメロン首相に対する影響力といった点で明らかに右派」と記されており、さらには、「自由市場と小さな政府の重要性も認識している」と書かれています。