(速報分析)2015年英国総選挙結果: 前回2010年から票はどう動いたのか

さて、ほぼ3年ぶりの投稿となりますが、、、昨日の英国総選挙結果の体勢が判明したので、速報ベースの分析を試みたいと思います(追記:数字を確定値で更新しました)。

疑問
前回総選挙で躍進して保守党と連立政権を組んだLibDemは一人負け状態で、前回23%まで伸びた得票率が今回は7.9%。全体の投票率は65%から66%へと微増です。さて、この人たちは今回、どこへ行ったのでしょうか。下記は、前回2010年の総選挙との比較での今回の得票率の増減です(例えば、UKIPは前回から得票率を9.5%上げている)。
UKIP +9.5
SNP +3.1
Green +2.8
Labour +1.5
Conservative +0.8
Liberal Democrats-15.2

前提

A) もともと中道左派のLibDem票が極右ともされるUKIPへ流れることは考えづらいでしょう。UKIPの得票率の増加は、その多くは、中道右派である保守党から流れていると考えるのが妥当です。

B) また、もともと、保守党が中道右派労働党中道左派、LibDemが左派と考えられていた中で、LibDemに失望したLibDem票が(ある意味でその失望を手助けした連立パートナーの)保守党に流れるとは考えづらく、多くはLabourかGreenに流れているものと考えるのが妥当です。

その上で、地域別に結果を眺めてみると、もちろん、それ以外にもいろんな前提を置かないとこんな大胆かつ単純な推測はできませんが。。。

推論

イングランドでは、LibDem票の一部がGreenに、一方で、それ以上にLibDem票がLabourに、10%ポイント単位のかなりのLabour票が保守党に、さらにそれとほぼ同数の規模で保守党票がUKIPに移っていると考えられます
UKIP +10.7
Labour +3.6
Green +3.2
Conservative +1.4
TUSC +0.1
Liberal Democrats -16.0

スコットランドではLabourとLibDemの流出がほぼそのままSNPへ
SNP +30.0
UKIP +0.9
Green +0.7
Conservative -1.8
Liberal Democrats -11.3
Labour -17.7

ウェールズでは、ほぼイングランドと同じ傾向で、LibDem票の多くが労働党→保守党→UKIPに流れたと言えそうです
UKIP +11.2
Green +2.1
Conservative +1.1
PC +0.8
Labour +0.6
Liberal Democrats -13.6

北アイルランドは変化の幅が小さいですが、ここでも、UKIPは得票率を増加
UKIP +2.6
APNI +2.2
UUP +0.8
DUP +0.7
SF -1.0
SDLP -2.6

意味合い
こうして考えると、この選挙結果は、大きくはこういうことなのかもしれません。

移民問題や経済政策などでEUとの関係がこじれていたイギリス全体で右派が台頭して、保守党から奪う形でUKIPの支持率が高まっていた
②結果的に保守党は、EU問題で右派よりのポーズを示すことで流出を最小限に食い止めつつ、経済・財政運営において中道の指示を得ることに成功
労働党エド・ミリバンド党首が、中道層やイングランドにおける支持の獲得でキャメロン首相に敗北しつつもLibDemの失墜で得票を増加
④もともとリベラル層からの支持が厚かったLibDemは、5年間の政権運営の中でリベラル政党としての信用が失墜して敗北
⑤結果的に、イングランドウェールズではリベラルのLibDem票が労働党→保守党→UKIPと回り回って移動
スコットランドでは、全く別次元の戦いとして、昨年の独立住民投票におけるナショナリズムの高まりからSNPが労働党とLibDemから票を奪う形で、住民投票における独立派の得票に近い半数の得票を得て勝利

情報ソース
データは確定値でBBCのウェブサイトから情報を得ました(http://www.bbc.com/news/election/2015/results

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BBCの予測が更新されて、保守党が単独過半数の勢いです。単独過半数政党がない選挙結果(ハングパーラメント)が確実と言われていた中で、世論調査会社は何を読み間違え、投票所で有権者によぎった考えはなんだったのでしょうか。

上記の分析が正しいとすると、その原動力は、前回選挙で労働党を支持したイングランドの中道有権者の、(1)地域政党のSNPにイギリス議会のキャスティングボードを握らせる懸念と、(2)ミリバンド党首への煮え切らない思いと、(3)過去5年間のキャメロン政権への積極的・消極的な信任、だったのかもしれません。